繰り返しの記憶の先は〜プロローグ〜
「社は仲間だ!」


チクン


・・・・・


なんか今痛かったような・・・???


(・・・同じ獣医を目指す仲間なのに)


そっか、思い出した


仲間


あの時は仲間でもいいと思った


けど気付いてしまった


『仲間』


心を繋いでおくなんて便利な言葉なんだろう


・・・・


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「うわっ!」
(ガバッ!)
 クラクラする頭を押さえながら上半身を起こす。
「やべえ、のぼせて寝ちまってたのか」
「ん・・・?なんで俺、家にいるんだ?」
 今は修学旅行中で北海道のハズ。それで、榊にハメられて、小浴場に尾田島が入ってきて、武本たちも入ってきて・・・そこまでは覚えてる。けど、周りを見渡してみても彼女たちの姿は見当たらない。
「・・・尾田島?」
 思わず声を出して探す。返事はない。当然だ、ここは社動物病院の、俺・・・すなわち社太助の部屋なんだから。
 まるで狐につままれたような気分だ。

(コチ・・・コチ・・・)

 誰もいない(・・・俺以外は)部屋の中で、目覚まし時計の音が響く。まるで世界に自分独りだけ取り残されたような感覚。額に汗がジワジワと染みてくる。

「太助ー!休みだからっていつまで寝てるんですか!」
 聞き覚えのある声。親父だ。
 頭を抑えながら階段を下りていく。
「なあ親父・・・なんで俺ここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフですよ。さっちゃん探してくれって頼んだでしょ」
「・・・へ?」
 親父の言ってる意味がわからない。

「こんにちはー」
 玄関のドアが開く。
「どうされました?」
「ワクチンお願いします」
「はいはい、こちらへどうぞ」
 みさと先輩!・・・それにわー太。

(こちらは初めてですか・・・はい・・・じゃあ診察券作りますね・・・はい・・・)

 まるで初対面みたいなやりとりをする親父とみさと先輩に、俺はただただあっけにとられていた。
 ふと、みさと先輩と目が合う。
 声が出ない。告白から続く気まずさというのではなく、俺がいつも知っているみさと先輩とは何か違うような気がして、声を出させるのを躊躇させた。
「顔が青いですよ・・・大丈夫ですか?」
(ぴと)
 みさと先輩の手が俺の額に伸びる。
「み・・・み・・・」
「・・・あら?なんだか熱もあるみたい」
 何か変だ・・・。みさと先輩、俺のこと、わかってない・・・?
 それにこのシチュエーション・・・どこかで・・・。どこかで・・・。
 みさと先輩とわー太に初めて出合った日。血の接触・・・わー太と会話できるようになった日。その日と同じ場面じゃないか?
 ナンデ・・・。
「舟越わー太さーん」
 診察室からの親父の声が聞こえる。
「あ、はい。・・・あっ!」
 頭で理解できる範疇を超えた世界、その空気に耐え切れなくなった俺は、みさと先輩を振り切って家を飛び出していた。



つづく