メガネの裏に篭めたキモチ
 この創作作品には、ガウガウわー太における
 3巻及び9巻、10巻、11巻相当のネタばれが含まれております。
 ご注意ください。

























どん。



 ここは鉢形高校。



ばっさばさ。



 男と女が出会い頭に衝突した。

 女が持っていた本が、落ちた。



太助「あー委員長。ワリィ‥‥」

 男、社太助が本を拾おうとした刹那、
女、尾田島淳子は落ちた本をすべて回収して立ち去ろうとして、
ふと立ち止まった。

 振り返り様に一言。

尾田島「ふん、気をつけろ」



榊「ひょえー、相変わらずおっかねぇな。委員長サマ
  ‥‥いくら頭良くても誰も寄りつかん」


 トラブルに気付いたクラスメイト、榊耕一が
呆然としている社太助に声をかけた。それでも社太助は硬直しつづけた。





























メガネの裏に篭めたキモチ































 私の名前は尾田島淳子、学生だ。

 ‥‥まだこの癖は直らんか、何時からこうなってしまったのか。
人と、馴れ合うのが、ニガテなのだろうか。

 遺伝ではあるまいが、親も視力は芳しくない。

 私自身、昔はメガネ要らずの視力だったのだが、
いつの間にやら矯正が必要になってしまった。

 それからだな、人との壁を意識しだしたのは。
幼い頃より親しんで来た読書に余計にのめり込んでしまった。

 それがこの私の口調に表れているのだろう。



武本「委員長」

尾田島「武本か、何か用か?」

武本「また、やったわね」

尾田島「あー、そうだったかもしれんな」

 武本さゆり、ちょっとしたことから腐れ縁となってしまった。
‥‥その、なんだ。私は親友だと思っている女の子だ。

 私は‥‥だぞ、武本は私の事をどう思っているのかは知らんぞ。
知らんからな。知らんと言っているだろうが!!



武本「社君、唖然としてたわよ」

尾田島「‥‥別に」

 一人が好きなわけじゃない。
好きではないが‥‥こういう対応をしてしまうのだ。

 私がそのような対応をした時、武本がフォローした科白の一つ。
『尾田島は一人がすきなのよ』と言いふらしてくれる。
今回もそう言ってきたのだろうな。

 どういう意味だそれは。
私の対応を武本が緩和してくれているようだから何もイワンが。

武本「だってほら、私っておねぇちゃんじゃない。
   周りからは年長者らしい振る舞いを強制されてきたから。
   他の人にはそういう思いしてほしくないかな」


 又、少しきつめに対応してしまったのだろうか。
武本が少しばかり表情を変えて、

尾田島「武本」

武本「だからね尾田島さん、」

尾田島「一度言えば解る」

武本「‥‥う」

尾田島「人はそうポンポン良い方向に替われるものではない」

武本「‥‥‥‥」

尾田島「正直疎ましいが、武本のその気持ちには感謝している。ありがとう」

尾田島「武本の言い分もわかるが
    やっている事といっていることが食い違っておるぞ」


尾田島「私だってどうにかしたい、が、すぐには無理なのだ」

尾田島「その‥‥だな。テレとかあるし」

武本「うん」



がるるるる‥‥。



尾田島「なんだ‥‥?」

武本「‥‥けん、か?」

 尾田島と武本は視線を交わし、すぐさま異音がする方へと駆けて行った。



 案の定、コーギーと豆柴が、ドーベルマンとブルドック相手にケンカをしていた。
なぜ一対一のケンカじゃなかったのかは解らない。

 それは彼ら、彼女に直接聞いて欲しい。

 二人が駆けつけた時には既に決着がついており、
柔よく剛を制す‥‥‥‥ではないが小柄なコーギーと豆柴が勝ったようだ。

 勝負はやってみなければ解らない、それがそこでは行われていたようだ。



尾田島「小柄なだけで、力はコーギーの方があったのかもしれんが、
    柔よく剛を制すというのはちと‥‥、おい」


武本「かわいそう、手当てしてあげなきゃ」

尾田島「‥‥まったく、デカイくせに。まさに負け犬って感じだな」

武本「かちん」

 犬に近寄ろうとしていた武本の動きが止まった

尾田島「‥‥かちん?」

 異変に気づいた尾田島の頬を熱い何かが駆け抜けていった。



ぱん!



 乾いた衝撃音がした。

 振り向き様の張り手、尾田島のメガネは宙を舞った。



かつん。



 アスファルトとケンカしたメガネは、痛いと文句を言った。
しかし、持ち主の尾田島は呆然としていた。

尾田島「‥‥‥‥」

 尾田島のほおが、瞬く間に朱を帯びていく。

武本「あなたね、知識が豊富でも、知恵と出来なければ、意味がないのよ」

尾田島「なっ‥‥」

 尾田島は、武本の行動が理解できなかった。

尾田島「な、何をする」

 尾田島は、打たれた頬をさすった。熱が引く様子は無い、
さらに熱を帯びていく感覚が手のひらから伝わってくる。

武本「逆のほおも、差し出しなさい!」

 武本の激情ぶりに尾田島は後ずさった。

尾田島「たっ‥‥武本、お‥‥おお‥‥落ち着け、
    うん、そうだ、落ち着くんだ、それがいい。
    気にさわったことを言ったのなら謝る」


 武本の動きが止まった。

武本「‥った」

尾田島「武本?」

武本「負け犬って、言った!!」

尾田島「ま‥‥まけいぬ?」

 まけいぬ? 確かに言ったが、なぜそれで武本が怒るんだ?
尾田島の頭の中では、先ほどからの行動の巻き戻しが行われていた。

武本「わんちゃんだって、私たちと同じように生きているんだから、
   侮辱するようなことは言わないで!」


 む‥むちゃくちゃなこと、言われているような。
尾田島は心の中で後退った。

尾田島「解った。悪かったよ武本」

武本「‥‥‥‥」

尾田島「そうか武本はそういう考え方なのだな、では私もホンネを言おう」

武本「‥‥ホンネ?」

尾田島「武本よ、手を貸すのはよせ」

武本「‥‥え?」

 尾田島はメガネを押し上げる動作をした‥‥が、
メガネは鼻っ面に乗ってはいなかった。そうか、今はメガネが無いんだ。

 尾田島は状況判断を冷静にこなせて無い事を確認し、
それを誤魔化すように一発で説得しようとした。

尾田島「同情はするな、この出来事は彼等彼女等にとっては避けては通れんのだ。
    手を貸してはいけない」


武本「‥‥うん、そうだね。ごめんね」

尾田島「ドーベルマンよ、ブルドックよ。武本が失礼をした。
    ゆるして欲しい、ごめんなさい」





















武本「じー」

尾田島「なんだ武本」

武本「いえ、ただ意外かな‥‥って」

尾田島「い‥‥いうな、思い出しただけでももう‥‥頼むから」

武本「違うわ、素晴らしいのよ尾田島さん」

尾田島「う‥‥面と向かってほめられるのはチョット」

武本「尾田島さん、もしかして何か飼っているの?」

尾田島「小次郎の事か、うん‥‥居てくれている」

武本「やっぱり、うちにはねチンチラが居るのよ」

尾田島「ちんちら? なんだそれは」

武本「うーん、あ、ちょうどあそこのにお店がある。行きましょう」



武本「この子がチンチラよ」

尾田島「‥‥‥‥(で、でかい。もっと小さいのかと思っていた)」

武本「動物、いいよね」

尾田島「うむ‥‥そうだな」

尾田島「どうしたんだ、やぶからぼうに」

武本「私と同じ考え方の人が、尾田島さんでよかった」



 その後、社太助と武本さゆりと交わしたようなことが再びあった。
社の口から『犬が傷つくだろう』と言われるとは思いもしなかったからな。

 こうも近いうちに、
同じ考えを持った二人と出会う事になるとは思いもしなかった。





















ぽちゃん‥‥‥‥ぽちゃん。




 そして今、社は私の膝の上に居る。
何かの行き違いで、男湯と女湯が混浴になってしまったためだ。

 私以外の女が入ってきたために、社が犠牲になってのぼせた。
のぼせる以外にも、何か酔っ払いみたいな行動をしていたように思うのだが、
風呂に入る時には裸眼の私には詳細は不明だった。

 現実逃避の走馬灯ではあるまいが、
こんな時にあの時のことを思い出すとは我ながら――――。



 さっき目が覚めそうだったが、駄目だったようだな。



 社、私はオマエに逢えてよかったと思う。

 早く目を覚ませよ。

 あまりにお寝坊さんだったら、冷水をご馳走してやるからな。




















キャスト

尾田島淳子

武本さゆり

社太助

榊耕一







2004/10/31 作成
担当:カルネアデス


以上でお送りしました。