ドウブツのミナサマガタ
ナンでもごソウダンくださいめんどうなだけぢゃん
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そういう張り紙がある動物病院があった。
見渡す限りの過疎地であり、
唯一あった公的機関の郵便局もない場所。
その動物病院が出来てからは、
村は町へとなり、郵便局も復活し、村に活気が戻った。
その動物病院の名は、ひまわり動物病院と言ったそうな。
ガウガウわー太
にゅーじぇねれーしょん
ひまわり「こら、まちなさい!」
すいせん「いやだぁ!」
こすもす「やだよぉ!」
ひまわり「お注射しなきゃだめでしょ!」
村の再興に一役かった動物病院に元気な声が響く。
逃げ回っていた二人の子供は、追いかけていた女性に捕まった。
ひまわり「もう、お注射しないと大変なんだから」
子供を捕獲し、両脇に抱えた女性は金色の長い髪を翻し、診察室に向かった。
診察室を前に子供二人はすっかりおとなしくなった。
女性は子供を下ろして、ノックをする。
ひまわり「先生、お願いします」
太助「なんだ、もう捕まっちゃったのか?」
すいせん「だって、だって!」
こすもす「ママから逃げられるわけないよ」
子供たちは思い思いを先生にぶつけた。
先生は「そうかそうか」と話を聴いていないような対応をしている。
太助「残念だったね、じゃあ。お注射の時間だよ。ひまわり」
ひまわり「はい。先生」
ひまわりと言われた女性は子供二人の腕をつかみ先生に差し出した。
腕をつかまれた子供の顔には恐怖が浮かんでいた。
太助「はい。終わり。がんばったな。えらいぞ、すいせん、こすもす」
太助はひまわりが子供の手をつかんだ瞬間にすぐさま注射を打った。
太助の注射は、あまりの速さに打たれたことに気付かないと評判であった。
しかし子供たちは泣き出した。
すいせん「・・・ううう」
こすもす「・・・しくしく」
太助「なんだよ、(あまり)痛くはなかっただろう?」
ひまわり「当然です! 太助さんのは痛くありませんから」
ひまわりは自分が褒められているかのように頬を染める。
太助「ひまわり」
ひまわり「はい、ナンでしょう?」
太助「今は、『先生』と呼んで」
ひまわり「も、申し訳ありません太助さん! あらら・・・」
太助「・・・」
すいせん「ああ、痛くなかったよ、太助!」
こすもす「痛くない痛くない!」
すいせん「ひまわりに捕まったのが悔しかっただけだよ!」
こすもす「だよぉだ!」
ひまわり「こら、二人とも!!」
太助「・・・おいおい、診察室で暴れないでくれよ。三人とも」
太助は三人の襟首をつかんで、診察室から放り出した。
太助「次の方どうぞぉ。そうそう、注射打ったばかりだから暴れるの禁止!」
太助は勢いよく扉を閉じた。
ひまわりと子供たちは待合室にいる動物と飼い主の視線に射抜かれていた。
ひまわり「た、太助さんぅぅん。私は入れてください。お願いしますお願いしますぅ!」
ひまわりは、診察室の扉に抱きついた。顔は半泣きで、声も半泣きだった。
太助「だぁめ、子供の面倒見ててくれ! あと、ちょっと散歩にでも行って来い!」
ひまわり「えええ、まだ散歩の時間じゃありませんよぉ」
太助「・・・」
ひまわり「タスケサァァァン・・・」
診察室の扉が開く。
ひまわりの沈んだ表情が、太陽が昇ってきたときの向日葵のように輝きを取り戻す。
太助「だめだ、行って来い」
ひまわり「・・・はい」
ひまわりの表情は、太陽が沈んだ向日葵になった。
ひまわり「もう、ひどいわ太助さん。一人でお散歩だなんて・・・ぷんぷん」
不機嫌なひまわりの態度は目に余ってひどかった。
誰がどう見ようとも不機嫌さが身体中から染み出していた。
しかし道行く人はひまわりのそんな態度に気を止めなかった。
この町で、ひまわりのこの行動は日常茶飯事だったから。
ひまわり動物病院を知らない人間は、この町には居ないほど、有名だった。
すいせん「ママ、元気出してよ」
こすもす「ぼくたちも一緒にお散歩しているよ」
ひまわり「・・・」
ひまわりはキッと子供たちをにらみつけた。
その視線は獣のそれだったが、
子供たちはその視線を受け止めてなお、ひまわりから視線をはずさなかった。
ひまわりはその無垢な四つの視線に、よこしまな想像を駆り立てた。
ひまわり「ああ、どうしよう。太助さんに嫌われちゃった・・・」
すいせん「まま・・・」
こすもす「むぅ、毎日じ事やってて、学習してよ・・・」
気落ちしたひまわりを、子供たちが散歩コースへといざなっていく。
散歩コースの終着地点についた。
村を一望できる高台で、
地平線真っ直ぐに見据えると沈み行く夕日も望める。
村を望む崖はかなり急で、安全対策のための柵もあり、
望遠鏡も設置されている、なんと一回十円。
崖と反対方向は、青々とした森林が広がっている。
甘い考えのものが見たら頂上まですぐに上れるというぐらい山は低く見える。
今はまだ十五時、夕暮れまではまだあった。
すいせん「今日もいい天気ね」
こすもす「すごいや、人がまるでごみのようだよ。ほらママ!」
ひまわり「・・・」
ひまわりはまだ心を閉ざしている。
時折見せる空を仰ぎながら「太助さん・・・」とつぶやくことがあるぐらいだった。
すいせん「ママはあの調子だから」
こすもす「うん、行こう」
二人は森へ向かって走りだした。
すいせん「今日はどこへ行こう」
こすもす「うーん、あそこの果物がそろそろなっているはずだけど」
すいせん「そうだったかな、じゃあ今日はそこまで行こう」
目的地を決めた二人は靴を靴下を脱ぎ始めた。
愛らしいアンヨを山道につきたてる二人。
二人は意識を集中させて、何事かをぶつぶつ唱えている。
愛らしい足が毛深くなっていき、やがて犬のソレとなった。
こすもす「今日はうまくいったね」
すいせん「べ、別に。今日『も』うまくいったのよ!」
こすもす「やれやれだね。そういうことにしておくよ」
すいせん「ば、バカ! 細かいことをいつまでも・・・おいてくわよ!」
こすもす「え、そんな待ってよ!」
足がケモノとなった二人は山道を外れて獣道を駆け上がっていった。
伝説の犬神様狛犬様と伝説の狐神様御稲荷様のアイの子、
現ひまわり動物病院院長、社太助。
血の接触と呼ばれる行為で動物と会話ができる能力が芽生える。
ひまわりが、犬時代に胃拡張-捻転症候群を引き起こした際、
手術に立ち会った社太助の不注意から手に裂傷を負う。
その傷口が開いたまま、ひまわりに心臓マッサージを行ったことに由来する。
その結果、ひまわりにもその影響を及ぼし、
擬人化能力が開花し社太助と家庭を持つこととなった。
これは動物の生態系の垣根を越えた生命のドラマである(違う
ひまわり「ううう・・・太助さん」
ひまわりの頬に感情の滴が滑り落ちた頃、太陽は夕闇を呼んだ。
キャスト
社ひまわり
社すいせん
社こすもす
社太助
原作 / ガウガウわー太
参考文献 / ガウガウデータベース
アイコン / 蟻
担当 / カルネアデス
以上でお送りしました。
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